現在、マーケティング・リサーチにおいて、デジタルシフトが急速に進んでいます。そして2020年初より顕在化したCOVID-19による感染症の脅威は、特に定性調査においてオンラインシフトを急速に後押しすることになりました。
もっとも、COVID-19禍に関わりなく、マーケティング・リサーチのデジタルシフトは進行しており、筆者は2018年、日本マーケティング協会で開催されたセミナーでAIによる商品のパッケージデザイン好意度評価のシステムを知りました(https://hp.package-ai.jp/)。マーケティング・リサーチ業界内では将来的に調査手法自体がAIにとって代わられるとの声も聞かれます。どの時期までどのレベルがAIにとって代わられるのか? その正確な予測はできませんが、方向性として間違いないでしょう。
また、2020年12月現在、ヤフー・データソリューションと伊藤忠ファッションシステムの提携による、検索と購買のビッグデータ(全数データ)と、専門性の高いトレンド分析を組み合わせたサービスもローンチされたばかりです。専門性の高いトレンド分析は、本章でご紹介するデスクリサーチ、その中でも世代分析と重なります。
マーケティング・リサーチのデジタルシフトが進んでいるからこそ逆に、まだ人間にしか担うことのできないタスクの一つとして、本章では、筆者の主業務であるデスクリサーチを解説させていただきます。
1) 誰もがさりげなく行っているデスクリサーチ
デスクリサーチの目的として第一に挙げられるのは、定量調査、定性調査に先立ち、調査課題に対する仮説構築のため、調査テーマについての過去・現在の背景情報を把握することです。
その対象は、政治・経済・社会・技術(PEST分析)、調査対象となる市場、生活者・消費者の意識・態度・行動・世代論など多岐に渡ります。
定性調査における対象者インタビューでも、対象者の年代、育ってきた環境による価値観・態度形成は様々です。そのような対象者の背景情報をあらかじめ把握しておくことは重要です(思い込みによる余計なバイアス
調査フェーズにおけるデスクリサーチ(二次情報分析)の位置づけ形成には気を付けなければいけませんが)。
定量調査であれ定性調査であれ、企画段階で特に意識することなくデスクリサーチをされている方々は少なくないと思います。実際、プレスリリース等で発表された調査結果から、新たにリサーチを行わなかったとしても、ほぼ結果が読めてしまうようなケースもあります。もちろん、企業の意思決定において新たな企画によるリサーチは必要ですが。
その一つの例として、サブスクリプション(定額制)サービスの例を見てみましょう。当初はネットフリックスなどの動画配信やスポティファイなどの音楽配信(デジタル財)から普及してきたサブスクリプションサービスは、現在、様々なモノやコト(非デジタル財)にビジネスの範囲を拡げています。モノとしては、衣料品、高級腕時計、家電製品、新車、中古車、住居、家具、花などがあり、コトとしては美容、飲食店、居酒屋など多岐に渡ります。
「日経MJ(流通新聞)」の紙面で2019年に掲載されたサブスクリプション関連記事は41記事。うち動画・音楽配信系(デジタル財)は8記事で20%、それ以外は33記事で80%でした。それが2020年には31記事中、デジタル財は1記事で3%、非デジタル財は30記事で97%でした(筆者調べ)。つまり、サブスクリプションサービスの話題では、非デジタル財が激増しているということです(正確には市場伸長とは異なります)。
では、ここで「家具・インテリア」にフォーカスを当て、サブスクリプションにおいてどの程度、ポテンシャルがあるのかを調査課題として設定、デスクリサーチをしてみましょう(記事内容に将来性を感じたからです)。
Webで検索したところ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「サブスクリプション・ サービスの動向整理」(2019年12月9日)に辿り着きました。調査時期もそう古くはありません。このレポートのアンケート調査結果によると、ポテンシャルの高い非デジタル財のサブスクリプションはまず飲食。そしてファッション、自動車や生活系サービスが続き、家電製品、住宅、家具などのポテンシャルは低いことが読みとれます。
「家具・インテリア」は現在の利用率も将来の利用意向もともに低いことがわかりました。となりますと、将来の利用意向を高めるためには何が必要か? を重点的な調査課題に組み込むことが重要となるでしょう。
現状は顕在化していない利用意向まで踏み込むのでしたら、定性調査、それもMROCなどニーズを入念に探索できるメニューが有効でしょうか。
現在利用している、今後利用してみたいと思うサブスクリプション・サービス(複数回答)(n=520)
*「サブスクリプション・サービスの動向整理」2019年12月9日三菱UFJリサーチ&コンサルティングより https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/assets/internet_committee_200205_0002.pdf
2) 過去から現在を俯瞰するデスクリサーチ
最も基本的なデスクリサーチ(二次情報分析)の例を示します。
まずは、缶チューハイなどのRTD(Ready to Drink)とビール類(ビール、発泡酒、新ジャンル)の市場が、1998年から2018年までの20年間にどのような変遷を経てきたのかを俯瞰してみましょう。
最初に1年ごとの社会・経済動向などマクロ環境の推移と、ビール類の新製品上市の「流行年表」を作成します。右ページの「流行年表 1998-2017年」はスペースの都合上、2016年と2017年の2年間のみ掲載します。
この「流行年表」は各年ごとに、世の中の経済状況や流行にはどのような特徴がみられ、ビール類やRTDではどのメーカーのどのような商品が発売されリニューアルされたのかの一覧です。
国内経済はアベノミクス景気の中、生活者の肌感としては好景気を実感しにくかったものの、2016年のマイナス金利特需(2月導入)、2017年10月の日経平均株価16日連続上昇による57年ぶりの歴代最長記録更新がありました。デフレ対策も進み、酒税法と酒類業組合法改正(6月)による安売り規制が強化されました。
流行語では2016年の「ポケモンGO」「RPAP」、2017年の「インスタ映え」などSNSの影響がほぼ当たり前の状況になり、米津玄師などSNSを突破口としたヒットが量産されるようになっていること、それが一般的な商品ヒットも後押ししていることも2021年現在、変わっておりません。
さらに、2010年代後半にあたるこの時期、政府主導による「働き方改革」「時短」の影響が食生活にも影響を及ぼしたこと(家呑みなど)、共働き世帯、育児中世帯、高齢者世帯の増加を背景とした「ミールキット」のブレイクなど、経済・社会の潮流を反映したヒット商品の出現や流行現象が見られました。
その中でもRTDとビール類の新商品は、今までにない革新的な商品ではありませんでしたが、定番ブランドの新バージョン(RTDではキリンの「キリン氷結」シリーズ、ビール類では「ザ・プレミアム・モルツ」「アサヒスーパードライ」「スタイルフリー」「キリン のどごし」「キリン一番搾り」「クリアアサヒ」など)の発売が相次ぎました。
RTD市場・ビール類飲料 マクロ環境変化とトレンドの経年変化
「流行年表 1998-2017年」のうち2016年と2017年の2年分
RTDの市場規模は20年間で約6倍伸長しました(次ページ、RTD市場 マクロ環境変化とトレンドの経年変化「総括」参照)。今でも筆者の記憶に強く残っているのは2001年7月、キリンの「キリン 氷結」の新発売です。これはビールメーカーのRTD市場本格参入とメガブランドの誕生というエポックメーキングな事例でした。ユニークなダイヤカットが施されたパッケージも印象的で、あたかも「氷結」という新カテゴリーが誕生したような感もありました。当時は若年層の消費が多かったものの、その後の健康ブームもあり、ビールに比べて糖類が少ないことから購入層が拡大しました。2005年の日本の人口の“自然減元年”で伸びは一瞬だけ鈍化したものの、RTD市場の上昇基調は変わりませんでした。
2008年のリーマンショック以降、”より安く酔えるお酒”としてアルコール度数8~9%のストロング系のシェアが拡大、2010年には約35%に拡大しました。さらに、サントリー主導によるハイボールカテゴリーの復権による相乗効果もありました。
一方では女性向けの低アルコール(3%)新商品や、発泡酒や新ジャンルと同様の機能系も伸長、2014年4月の消費税率8%のアゲインストをものともせず、RTDの市場規模はさらなる伸長を遂げたのです。
2016年以降は、GMSや大手コンビニとのPB商品も増加しました。
後述のビール類も同様ですが、「総括」の下段に中期的な「トレンド」(筆者による定義)を掲載しております。
- 《産業構造転換期》1998~2003年 *格差社会化と二極化の進行
・97年から続いた金融機関破綻、2000年の銀行持ち株会社発足等
・デフレ進行と価格感度の低下
・一方で、洋画・邦画のヒットとUSJ、TDSのオープンなど
- 《癒し期》2004~2007年
・和魂商品(「伊右衛門、TSUBAKI」)と韓流ブーム
・CMリバイバルブーム、立ち飲み屋急増
・平井堅と秋川雅史のヒット - 《新スタイル顕在期》2008~2011年
RTD市場 マクロ環境変化とトレンドの経年変化「総括」
・ファストファッション
・家呑み、弁当男子、草食男子
・食べるラー油、塩麴ブーム、粗食系ダイエット、地産地消
・ウイスキー復権
・KPOPブーム(韓流の若年層化)
・東日本大震災による意識変化(絆)、生活様式変化(LED普及)
- 《“和”の再評価期》2012~2014年
・富士山の世界文化遺産化
・和食のユネスコ無形文化遺産登録他 - 《SNS時代の本格化》2012年~
・商品ヒットへの直接的貢献
・旧来商品の再付加価値化(文化の時間的なフラット化) - 《新ブーム生成期》2015~2017年
・ハロウイン新市場
・「ポケモンGO」
・「君の名は。」「シン・ゴジラ」
ビール類市場の20年間の推移ですが、全体として規模はシュリンクしています。平成不況とデフレスパイラルの中、家計の“救世主”のごとく登場した発泡酒はかろうじて機能系の存在感があるだけで、低価格のエコノミー系では2003年に登場した新ジャンルがメインとなっています。
2005年から2008年にかけ(癒し期と新スタイル顕在期)、新ジャンルの定番ブランドが主要4社から発売されましたが、2020年になってもビール類全体を牽引するような新ブランドのヒットは見られません。それでも既存定番ブランドの新バージョンとはいえ、《新ブーム生成期》では主要メーカーの新商品が続々発売されました。
今後の予測は、2023年の酒税法改正、ビール類飲料の酒税が55円で統一される2026年に向け、ビール類は標準価格帯と低価格帯に二極化することは間違いないでしょう。また2020年には標準価格帯のビールで国内初の糖質ゼロの機能系(「キリン一番搾り 糖質ゼロ」)も発売されています。
ビール類飲料市場 マクロ環境変化とトレンドの経年変化「総括」
3) 2~3年後の予測(仮説づくり)
前項では、RTDとビール類カテゴリーの過去と現在の市場の姿の俯瞰図を紹介しました。
次に、2017年時点から2~3年後を予測した事例を紹介します。
カテゴリーはエンタティンメント・レジャーです。2012年から2017年までの6年間を総括し、2018年から2020年までの短期トレンドを予測するという内容でした。
デスクリサーチの大きなステップとしては下記の通りです。
《Step 1》音楽・映画・連続ドラマヒットランキング作成(2012~2017年)
ヒット傾向のまとめと今後の継続性の検討(次ページ参照)
《Step 2》レジャーのトピックス一覧作成
2018年以降も継続すると推察される事例のみピックアップ(省略)
《Step 3》2018年から2020年までのエンタテインメント・レジャーの
トレンド予測
【構造化マップ】2018年から2020年のエンタテイメント・レジャーのトレンド予測の仮説を作成
手順としては前項と同様、まず、年表(今回はエンタテインメント関連のみ)を作成しました。項目は「音楽」「映画」「連続ドラマ」。内容は主に雑誌を参照しました。
年表作成後、各々の傾向を8つのキーワードにまとめました。
「“世の中ゴト化”から“自分ゴト化”」「国内志向から海外志向へ」「キャラクターがより重視される」「鑑賞するだけでなく参加したい」「音楽のロングヒット傾向」「エクステンション(拡張)」「“新しい出会い” のパターン」「動画共有による世界のフラット化」。(次ページ参照)
次に、8つのキーワードの今後の継続性を、◎、〇、△の3段階で評価し、エンタテインメント、レジャーとも2017年以前から続いているか否かを判断、最後に2018年以降に顕在化するであろうトレンドの仮説を追加しました。(省略)
音楽・映画・連続ドラマ ヒットの傾向とまとめ 2015年~2017年
それらキーワードを抽象化、構造化したものが、次ページの【構造化マップ】2018年から2020年のエンタテイメント・レジャーのトレンド予測の仮説です。大きな軸は「個人寄り」「共同体寄り」の2軸です。
構造化されたメタレベルのキーワードは、「個人」「社会」「誇り」「時代」「参加」「伝統」「天才」「多様」「健康」「躍動」の10個です。
ブーム継続のキードライバーは、ハードでは「テクノロジー」、ソフトでは「キャラクター」であるという仮説を導出しました。
10個の構造化されたキーワードのうち、以下の4つを記載します。
- 個人
【価値観】自分のコンフォートゾーンを大切にしたい
【背景】“大きな物語”の消失と共同規範が弱まった成熟社会の必然
【事象】“自分だけ”の癒し、“世の中ゴト化”から“自分ゴト化”、音楽のロングヒット傾向、カラオケ、テーマパーク、旅行
- 参加
【価値観】“自分にもできそう”⇒“自分もやりたい”
【背景】プロ・アマを問わない動画共有サービスの普及
【事象】ストリートダンス(2012年の中学校保健体育でのダンス必修化)、鑑賞だけではなく参加したい(ファッション性も重要)
- 天才
【価値観】今まで“埋もれていた”カテゴリーの発見に刺激を受ける
【背景】幼少期から才能を磨かれた“天才”たちの出現(成熟社会)
【事象】将棋などのカルチャー(子供の幼少期からの英才教育が増加、天才的スポーツアスリートの活躍も増加)
- 躍動
【価値観】観るだけでなく“やるスポーツ”への欲求
【背景】2020年東京オリンピックへの期待・気分の高まり
【事象】ボルダリング、スケボー、サーフィン(五輪正式種目)(学校のクラブ活動で卓球がサッカーに迫る勢い)*東京五輪は延期になったものの基本的な流れは変わらないと考えます。
【構造化マップ】 2018年から2020年のエンタテイメント・レジャーのトレンド予測の仮説
1-2 デスクリサーチの可能性
1) 既存調査結果との組み合わせ
本章の冒頭では、デスクリサーチを、(定量・定性など)実査前段階の仮説抽出に位置付けました。これはあくまでも基本パターンであり、実際、筆者は実務においてフレキシブルなデスクリサーチを行ってきました。
デスクリサーチは実査前に行うだけではなく、既に実査が終わったデータの解釈においても効果的です。
調査結果に反映された生活者・消費者の意識・態度・行動を、主に世代論を駆使しながら「生まれて育ってきた背景」から解釈するということです。(次ページ図参照)
その中で筆者が気づいたこと3点を以下、記します。
第一に、世代論で生活者をみた場合、学校教育の影響が想定より強かったことです。例えば2008年の12月頃、「弁当男子」という流行語が話題になりましたが、これには1993年に中学校で、翌1994年に高校で家庭科が男女共修科目になったことの影響が大きいことがわかりました。1993年に中学3年生だった男性は2008年に30歳。それよりも若い当時の20代男性は“家庭科男女共修世代”ということになり、リーマンショック後の景気後退の中、弁当を作ることへの抵抗感が上世代に比べ低かったことは容易に想像がつきます。
第二に、コトバに対する感性を研ぎ澄ますことの重要性です。これは決して難しいことではありません。例として「自己責任」という概念を取り上げてみます。90年代初頭のバブル経済崩壊、90年代後半の金融危機とリストラの嵐、2000年以降の規制緩和による派遣労働の浸透(正社員削減)という時代の流れの中、企業社会という“繭”から投げ出された日本のビジネスパーソンには、いつの間にか「自己責任」を求められるようになってきました。
しかし、「自己責任」とは経済面だけの話ではありません。1996年、厚生省(当時)が「成人病」という呼称を「生活習慣病」に改めたことも象徴的です。糖尿病や高血圧などを「成人病」と呼べば、誰でも加齢ととも
世代論のアウトプットイメージ
にリスクが高まる病気ということになり、実際、そのように考えられてきました。しかし、「生活習慣病」となると各個人の生活習慣が悪いから罹患する、と認識が変わります。もちろん、それは医学的に間違ったことではありません。しかし、少子高齢化時代の医療費負担の問題もあり、個人の健康・疾病においてさえ「自己責任」概念が浸透する、という時代の変遷をとらえるためにもコトバに関する感性はおろそかにはできません。
第三にはやはり「世代論」はおろそかにできないことです。もちろん、世代ごとに生活者の価値観・意識・態度・行動がいつでもきれいに分かれる、ということはありません。それでも、世代ごとの相違点は、定量であれ定性であれ調査結果の相違として可視化されます。世代間で異なるニーズ・ウオンツもあれば、時が経っても変わることのない普遍的なニーズが世代によって異なったウオンツとして顕在化する例など、世代論と調査結果を組み合わせ、整合性を合わせていけば、ロジカルな知見が導出されることを、筆者は数多く体験してきました。
2) 文献調査について
筆者はデスクリサーチにおける文献調査を強みの一つとさせていただいております。短納期の業務では不可能ですが、通常のデスクリサーチでは、対象カテゴリーの全体像を把握するため、信頼性の高い有識者が書かれた書籍の内容をレポーティングの「軸」とすることがあります。その「軸」を中心として、ほか数名の有識者の書籍の内容を肉付けすることで、業界や市場、商品・サービスカテゴリーの全体像を捉えています。
たとえ自らが導出した知見ではなくても、参考文献を1枚の資料でまとめるといった能力も重要であると筆者は考えます。
次ページの図は社会学者の著作の内容で、筆者が最大のポイントと考えた要点を1枚にまとめた例です(セミナー用に作成)。
このようなまとめを行うことは構造化スキルを磨く訓練にもなると思います。
筆者は文献調査で社会学的な書籍をよく活用しますが、マーケティング・アナリストの三浦展氏や原田曜平氏の著作のように、定量や定性の調査結果がふんだんに使用されている資料の信頼性は高いと考えます。
もちろん、文献調査以外でも、デスクリサーチでは伝統的な手法である大宅壮一文庫などを利用した雑誌のタイトル・内容検索も必要に応じて使っています。現在は、KHコーダーのような計量テキスト分析のツールも無料で簡単に使えるようになり、便利になったものだと実感しております。
文献調査まとめの例
3 未来予測について
近年、デスクリサーチによる未来予測の需要も高まっています。但し、筆者は基本的に、未来は“予測”するものというより、“創り出すもの”という認識を持っています。それでも未来を見通すタームは用意しています。
未来予測について筆者は、データベースとして「未来年表」を作成しています。基本的にWeb検索が可能で、多くの方々が利用されている博報堂生活総合研究所の「未来年表」と同じく、ソースは新聞記事、書籍・雑誌(一部、専門誌)が中心です。当然、情報ソースが古い場合は内容を削除・更新するなどのメンテナンスも行っています。
期間は2019年から2100年まで。
網羅しているのは、国際情勢、宗教、宇宙、軍事、人口動態、政治、経済、技術、IoT、AI・ロボット、通信、放送メディア、自動車・モビリティ、資源・エネルギー、環境、医療、介護・福祉、教育、消費生活、企業経営、農業・漁業・林業、流通、物流、交通・旅行、住宅、建設、建築、スポーツ・エンタメ、芸術・アート、施設の30カテゴリーです。(次ページ図は「技術」の一部を抜粋)
2030年以降、情報量は全体的に減少するといった傾向にあるものの、テクノロジーなどの情報量は相対的に多くなっています。
予測をする場合、例えばテクノロジーと資源・エネルギーという2つのカテゴリーをクロスさせる、つまり、テクノロジーでこのようなことができるようになるのなら、資源エネルギー分野でもこんなことが実現するのではないか? という“読み”を行うこともあります(「強制結合」という方法論です)。
もちろん“破壊的イノベション”や、現況の世界的なCOVID-19禍などを事前に“読む”“予測する”ことは不可能ですが、制約はあるとはいえ、近未来を俯瞰することは可能です。
出来ることならば、近未来予測は一方的なレポート提出という形ではなく、ワークショップ形式による実施が理想的でしょう。
未来年表(一部抜粋)
4 有識者・ヘビーユーザーへのインタビュー
筆者のデスクリサーチサービスではオプションとなっておりますが、調査対象カテゴリーの有識者を筆者の機縁で探せる場合、有識者へのインタビューを行うこともあります。今までにお願いしたのは、飲食・健康関連の専門家、IoT分野のイノベータ(企業経営者)、デザイナーの皆さんでした。
ヘビーユーザーインタビューも行ったことがあります。ヘビーユーザーですので対象商品・サービス・カテゴリーについて忌憚のない意見を聞かせていただき、エンドクライアントさんとの間に広告代理店さんが介在している場合など、レポートに記すことを代理店さんが躊躇してしまうような深い意見まで聞かせていただいたこともありました。
5 戦略・戦術仮説の導出
通常、デスクリサーチ(二次情報分析)では、ここまで求められてはいない領域ですが、予め深いレベルでの情報収集が見込まれる場合、企業の商品・サービスの戦略・戦術仮説までカバーできるケースもあります。
デスクリサーチの結果で、SWOT分析まで踏み込んだケースもありました。ただし、これは例外的なケースであり、そこまで深いレベルまで求めるクライアントは少ないのが現状です。それにSWOT分析と言いましても、デスクリサーチによる仮説の域を出ることはありません。正式の戦略・戦術立案は定量や定性調査を行った後のフェーズとなるでしょう。
それでも、デスクリサーチ自体に、ここまでのポテンシャルがあるとい事例として、筆者が過去に行ったケースを最後に紹介し、デスクリサーチ(二次情報分析)の章を終えたいと思います。
調査テーマはある食品の海外市場進出でした。
プロモーションのアイデアまで提案させていただきました。
某国における某商品の展開について
参考ウェブサイト
PLUG AI パッケージデザインAI ver4.2
https://hp.package-ai.jp/
「サブスクリプション・サービスの動向整理」2019年12月9日三菱UFJリサーチ&コンサルティング
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/assets/internet_committee_200205_0002.pdf
参考文献
阿部真大2013『地方にこもる若者たち』朝日新聞出版
By 井上秀二 <文化マーケティングコンサルタントML251代表>